研究 · 第1回

Mリーグの着順はどれだけ運で決まるのか

牌譜データから、成績の差のうち運で説明できる部分を推定しました。

要点

  • 1シーズン(1人あたり約25半荘)のポイント差のうち、運で説明できる割合は推定94%、少なくとも85%です。
  • 最も多く出場した選手の通算302半荘でも、平均着順が実力を反映している割合は推定38%(多くても71%)です。
  • 一方で、副露率のような打ち方の指標は約5半荘で半分安定し、選手の個性がすぐに表れます。
  • 牌譜から測れる運(配牌・ツモ・裏ドラ・一発)を差し引くと、1半荘ごとのポイントのばらつきは20%小さくなります。

どう測ったか

選手ごとの成績のばらつきは「本当の実力の差」と「運によるばらつき」の合計です。運によるばらつきは試合数から計算できるので、 全体のばらつきからそれを差し引くと、本当の実力の差の大きさが推定できます。

2018-19〜のレギュラーシーズン(1シーズン10半荘以上の選手)で推定すると、 平均着順の本当の実力差は標準偏差で0.050着程度でした。 トップクラスの選手同士の対戦なので、実力差はとても小さいと言えます。

この実力差と運の大きさから「成績の半分が実力で説明できるようになる試合数」が決まります。平均着順では約499半荘です。 ただし推定の幅は大きく、90%区間は約124半荘〜上限なしです。 「上限なし」は、今のデータでは「プロ同士の平均着順の差はすべて運」という可能性も否定できないことを意味します。

指標ごとの安定の速さ

指標半分安定する試合数(推定)90%区間1シーズンでの信頼度通算302半荘での信頼度
副露率約5半荘約4半荘〜約9半荘83%(74%〜86%)98%(97%〜99%)
立直率約46半荘約31半荘〜約102半荘35%(20%〜45%)87%(75%〜91%)
放銃率約85半荘約50半荘〜約281半荘23%(8%〜33%)78%(52%〜86%)
和了率約90半荘約54半荘〜約279半荘22%(8%〜32%)77%(52%〜85%)
ラス率約212半荘約88半荘〜上限なし11%(0%〜22%)59%(0%〜77%)
1半荘あたりポイント約408半荘約143半荘〜上限なし6%(0%〜15%)43%(0%〜68%)
運を除いた1半荘あたりポイント約329半荘約115半荘〜上限なし7%(0%〜18%)48%(0%〜72%)
平均着順約499半荘約124半荘〜上限なし5%(0%〜17%)38%(0%〜71%)
トップ率約1,164半荘約173半荘〜上限なし2%(0%〜13%)21%(0%〜64%)

局単位の指標は、1半荘あたり平均12.2局として半荘数に換算しています。 区間は選手単位のブートストラップ(300回)によります。

読み取れること

  • 打ち方の個性はすぐに表れる。副露率・立直率は数十半荘で安定し、推定の幅も狭く収まります。鳴く選手・リーチする選手の違いは、運ではなく打ち方の違いです。
  • 和了率・放銃率は1シーズンでは決まらない。半分安定するのに約90半荘(和了率)、約85半荘(放銃率)かかります。
  • 着順・ポイント・トップ率・ラス率は、実力の差があることすら確かではない。どれも90%区間の上限が定まりません。どの指標が早く安定するかの比較も、今のデータでは結論できません。
  • 1シーズンの順位は、ほぼ運で決まる。好調・不調のシーズンがあっても、それだけで実力の変化とは言えません。

運を差し引いたポイント

配牌の向聴数とドラ枚数、ツモで手が進んだ回数(向聴数ごとの期待値との差)、裏ドラ、一発を「運の指標」とし、 それぞれが局の期待ポイントをどれだけ動かしたかを全データから推定して差し引きました。 運の指標は平均が0になるよう作っているので、差し引いても平均的な実力の評価は変わらず、ばらつきだけが減ります。

この補正で1半荘ごとのポイントの標準偏差は45.1ptから40.4ptになり、 半分安定するまでの試合数は約408半荘から約329半荘に短くなります。 選手ページの「運を除いた1半荘あたりポイント」はこの値です。

ニューラルネットワークで局面の価値を評価して運を差し引く研究(MJ-DLVAT)では、天鳳のデータで平均順位の分散が約45%減っており、 運の大部分はツモによるものと報告されています。本サイトの補正は、牌譜から直接測れる範囲に限った簡易版です。

このサイトでの見せ方

各選手のページでは、実績と並べて「推定値」を表示しています。推定値は、試合数が少ないほどリーグ平均に寄せて見積もった値で、 上の「半分安定する試合数」をもとに計算しています。詳しくは用語集をご覧ください。

注意

  • 対象は牌譜が公開されている全試合です。記録に不備のある局は打ち方・運の指標から除いています。
  • 推定には「選手の実力はシーズンを通じて一定」という単純化が入っています。
  • 数値はシーズンが進むと更新されます。

参考文献

  • Ogami, Amano, Tsuruoka. "MJ-DLVAT: A Deep Learning Value Assessment Technique for Mahjong." IEEE, 2024.
  • Burch et al. "AIVAT: A New Variance Reduction Technique for Agent Evaluation in Imperfect Information Games." AAAI, 2018.
  • Duersch, Lambrecht, Oechssler. "Measuring skill and chance in games." European Economic Review 127, 2020.
  • とつげき東北・伊藤毅志「牌譜の解析による麻雀の分析」人工知能学会誌 24(3), 2009.